チェーンステッチであれば、どんなミシンで縫ってもヴィンテージのようなアタリが出るわけではありません。デニムリペアの現場で決定打とされるのが、米国の縫製機械メーカーが1950年代前後に製造していたヴィンテージミシン、ユニオンスペシャル43200G(通称ブルドッグ)です。
この旧式ミシンには、現代の高精度な電子ミシンにはない強烈な「機械的癖」が存在します。それこそが愛好家の間で語り継がれる裾上げねじれの真相です。ユニオンスペシャル43200Gは、生地を送るパーツ(送り歯)の動きとラッパ(裾の巻き具)の構造上、生地を均一に送ることができず、わずかに斜め方向へと引っ張りながら巻き込んで縫い進めます。さらに下糸のテンションが極めて強いため、縫い上がった時点で裾には目に見えない強烈な「斜行ストレス」が蓄積されています。
このねじれた状態で洗いをかけると、生地の縮みと糸の縮みが衝突し、裾が斜め45度方向に強烈にねじれ上がります。これが、現代ミシンのまっすぐなパッカリングとは決定的に異なる、ダイナミックなデニム裾上げアタリの出方を決定づける物理的根拠です。現在ではこの43200Gの個体数が世界的に激減しており、メンテナンス可能な職人も限られていることから、保有するリペア工房の価値が年々高まっています。
あわせて見逃せないのが、綿糸とスパン糸の違いです。現代の既製服で多用されるポリエステル製「スパン糸」は、切れにくく色あせない反面、熱や水で縮みません。対して100%コットンで作られた「綿糸(カントン糸など)」は、洗うことで生地以上に収縮し、インディゴとともに色が褪せていきます。ユニオンスペシャル43200Gの強烈なトルクで綿糸を走らせてこそ、経年変化の極致を味わうことができます。