急性大動脈解離を引き起こす主因の筆頭は、紛れもなく高血圧症です。日本循環器学会の調査報告でも、解離を発症した患者の約70〜80%に高血圧の既往が認められています。血管の内壁は、心臓の拍動に合わせて1日に約10万回もの拍動ストレスを受けています。長期間にわたって高い血圧にさらされ続けると、血管の内皮細胞が傷つき、中膜の弾性線維が変性・破綻して弾力性が失われます。そこに突発的な血圧のスパイク(急上昇)が加わった瞬間、耐えきれなくなった内膜が裂開するのです。
生活環境における発症の引き金として、救急現場が警戒するのが以下の4大リスク環境です。
1. 冬場の急激な温度差(ヒートショック)
暖かい居間から暖房のない冷え切った脱衣所や浴室、夜間のトイレに移動した際、冷気によって末梢血管が一気に収縮し、血圧が20〜30mmHg以上跳ね上がります。統計的にも、大動脈解離の救急搬送件数は12月から2月にかけての冬季に明確なピークを示します。
2. 排便時の強い「怒責(いきみ)」
便秘がちな人がトイレで息を止めて強く力むと、胸腔内圧が高まり、直後に急激な血圧上昇と大動脈へのせん断応力が発生します。朝方のトイレで倒れて発見されるケースが多いのはこのためです。
3. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)と強い精神的ストレス
夜間の無呼吸発作に伴う低酸素状態は、交感神経を異常に興奮させ、夜間睡眠中の血圧を異常値に押し上げます。また、極度の怒りや過度の疲労、徹夜作業なども血圧を急上昇させる直接の引き金になります。
4. 先天的な結合組織疾患(マルファン症候群など)や喫煙
動脈壁のコラーゲンや弾性線維に先天的な脆弱性があるマルファン症候群などの患者は、若年であっても血圧に関わらず解離を発症するリスクを抱えています。さらに、喫煙習慣は動脈硬化を急速に進行させ、血管壁の強度を著しく奪います。