スポーツ社会学および組織心理学の視点からプロ野球を見つめ直すと、猛打賞という制度が半世紀以上にわたって維持されてきた構造的な理由が浮かび上がってきます。
打率3割を残せば一流と呼ばれる野球という競技は、本質的に「7割の失敗」と向き合い続ける過酷なメンタルスポーツです。年間143試合という長いペナントレースを戦う選手たちにとって、シーズン終了時の個人タイトルだけを目標にするのは心理的スパンが長すぎます。その点、猛打賞という「その日限りの明確で即時的な成功体験(ショートターム・リワード)」が用意されていることは、選手のモチベーションを一日単位でリセットし、目の前の1打席に全力を注がせるための極めて優れた心理的インセンティブとして機能してきました。
さらにファンにとっても、「今日は贔屓チームが負けてしまったが、若手ホープが初の猛打賞を達成して光が見えた」「お目当ての選手が賞金を手に笑顔を見せてくれた」というように、試合の勝敗とは別のレイヤーで満足感を得るための装置となっています。スポンサー企業にとっても、自社名がアナウンスされ、ヒーローの活躍と直結する形でブランド認知を高められるという三者三得の経済合理性が成立しています。
スタジアムに足を運ぶ際やテレビ観戦をする際は、単にチームの得点を見るだけでなく、「どの打者が今日猛打賞に王手をかけているか」という視点を持つだけで、中盤から終盤にかけての各打席の緊張感は何倍にも跳ね上がります。