処方箋データやWebコミュニティ、婦人科クリニックでの聞き取り調査を通じて浮かび上がるのは、加味逍遥散に対する極めて鮮明な明暗のコントラストです。
都内のIT企業でマネージャーを務める40代女性は、当時の心境を次のように語っています。
「以前は生理の10日前になると、部下の些細なミスに対して胸の奥からカッと激しい怒りが湧き上がり、キーボードを叩きつけるように打つ自分を止められませんでした。婦人科でツムラ24番を処方され、朝晩欠かさずぬるま湯で飲み始めて2週間ほど経った頃、ふと『最近、心の中に分厚いクッションが1枚入ったようだ』と気づきました。怒りの感情自体は湧いても、それが爆発せずにスーッと引いていく感覚でした」
一方で、体質に合わなかった人たちからは、失望や不快感を訴えるリアルな声も寄せられています。30代前半の会社員女性は、ネット上の口コミ評判を信じて市販の加味逍遥散を購入したものの、服用3日目で激しい胃もたれと食欲不振、さらには軟便に見舞われ、服用の中止を余儀なくされました。
調剤薬局の現場で日々患者と向き合う管理薬剤師は、このギャップについて次のように指摘します。
「加味逍遥散は万能のメンタル安定薬ではありません。口コミで劇的な改善を見せる人は、例外なく『気滞化火(気の滞りと熱の亢進)』という明確な東洋医学的サインを持っています。ところが、単に身体が冷え切っている人や、胃腸の消化吸収能力が著しく落ちている人が自己判断で服用すると、山梔子などの苦味・寒性生薬が胃壁を刺激し、逆効果をもたらしてしまうのです」
ネット上の「効いた」「効かなかった」という二元論に惑わされず、自らの現在の病態が「熱を持っているのか、冷え切っているのか」を冷静に見定める視点が不可欠です。