ライフハック系のアカウントや一部のブログ記事で頻繁に拡散されている「重曹と酢(クエン酸)を混ぜて泡立てる色移り落とし」は、化学的観点から言えば完全な誤解であり、染料の除去にはほとんど効果がありません。
弱アルカリ性の重曹に酸性の酢を混ぜると、激しく炭酸ガス(二酸化炭素)の泡が発生するため、いかにも強力な洗浄力が発現したかのように見えます。しかし、発生しているのは単なる中和反応であり、残留するのは中性の塩と水です。汚れや染料を繊維から引き剥がすために必要な「アルカリ度」も「酸化力」も相殺されて激減してしまうため、色移り落としとしての実効性は極めて乏しいと言わざるを得ません。
さらに警戒すべきは、塩素系漂白剤と酸素系漂白剤の違いを混同することです。塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)は脱色力が極めて強力ですが、染料だけでなく衣類本来の染料まで破壊します。さらにポリエステル混紡の白シャツに使用すると、繊維に含まれる樹脂や不純物と反応して不可逆的な黄色に変色(黄変)を起こす危険があります。
また、外出先などでオキシクリーンがない場合の応急処置として推奨されるのは、実は台所用の食器用洗剤です。食器用洗剤は界面活性剤の濃度が高く(30〜40%前後)、油分を含む染料の初期吸着をブロックする力に優れています。色移りした箇所をぬるま湯で濡らし、食器用洗剤を原液のまま塗布して指の腹で優しく揉み込んでおくだけで、その後の本格洗浄での落ち具合が劇的に向上します。