闇の中に浮かび上がる、格子窓の向こうの遊女たち。手元を照らす行灯の柔らかい光と、影の中に沈む人々の表情。代表作『吉原格子先之図』を目にした海外の学芸員から、思わず「江戸のレンブラント」と感嘆の声が漏れたのも無理はない。
油彩画の技術など知る由もなかった時代に、和紙と墨、そして天然顔料だけでここまでの明暗対比を作り上げた技術は奇跡に近い。光が当たる部分の明度だけでなく、影の濃淡によって空間の奥行きを生み出す技法。北斎自身が「美人画にかけては応為に及ばない」と周囲に漏らしていたという逸話は、決して身内贔屓の謙遜などではなかったのだ。