山寺宏一氏の真の凄さは、音声データとして完成したアニメを見るだけでは伝わりきりません。最も驚嘆しているのは、同じブース内でその背中を見ている共演者たちです。
ばいきんまん役の中尾隆聖氏をはじめとするベテラン声優陣がテレビ特番などで語る現場のリアルな光景には、驚くべきマイクワークの技術が記録されています。
アフレコ現場では、限られたマイクの前に声優が入れ替わり立ち代わり移動しながら収録を行います。山寺氏の場合、例えば「チーズの鳴き声(低めのマイク位置)」を出した直後、わずか1秒の合間に「カバおくんのセリフ」を叫び、さらに間髪入れずにパン工場の「ジャムおじさんの優しい語りかけ」へと移行します。
この間、息を整える時間すらありません。一般的な声優であれば、発声する筋肉(喉頭の位置や声帯の締め方)をリセットするために数秒のインターバルが必要ですが、山寺氏は呼吸を吸う動作そのものを利用して瞬時に共鳴ポイントを鼻腔から喉奥へシフトさせるという超絶技巧を無意識レベルで行っています。
視聴者コミュニティの反応を見ても、「子どもの頃はチーズとカバおが同じ声優だと知って衝撃を受けた」「大人になってエンディングクレジットを見て、改めて山寺さんの異常なスキルの高さに震えた」という声が絶えません。派手なパフォーマンスではなく、作品世界に完全に溶け込む黒子としての職人芸こそが、業界内外からリスペクトを集め続ける理由です。