音楽がロマンを掻き立てる一方で、物理学の世界における「タイムマシンに乗って過去へ行くことの実現可能性」は、現在どこまで解明されているのでしょうか。アインシュタインの相対性理論を起点とする現代宇宙論の到達点を整理します。
結論から述べると、特殊相対性理論が示す「光速に近い速度で移動する宇宙船内では時間の進み方が遅くなる」という現象や、一般相対性理論が示す「巨大な重力場(ブラックホール周辺など)では時間が遅れる」というタイムラグを利用すれば、未来へ行くタイムトラベルは理論的・実験的に完全に実証されています。現に地球周回軌道を回るGPS衛星の時計は、地表との重力差と運動速度の差によって毎日ごくわずかな時間のズレを生じており、相対論的補正が行われています。
しかし、歌の主人公たちが夢見る「過去への時間旅行」となると、物理的な障壁は一気に跳ね上がります。一般相対性理論の方程式上では、ワームホールを通過するルートや「閉じた時間的曲線(CTC: Closed Timelike Curve)」と呼ばれる時空の歪みを用いることで、理論上の過去帰還ルートを導き出すこと自体は可能です。しかし、これを実現するには以下の現実的課題が立ちはだかります。
- 負のエネルギー(エキゾチック物質)の必要性:ワームホールのトンネルを安定して開いたまま維持するには、マイナスの質量を持つ未知のエネルギーが天文学的な量で必要となる。
- 因果律の破綻(親殺しのパラドックス):過去に戻って自らの誕生を阻害した場合、因果関係が崩壊してしまう論理的矛盾。
- 量子効果による時空崩壊:スティーヴン・ホーキング博士が提唱した「時間順序保護仮説」によれば、過去へ通じる時空の裂け目が生じた瞬間、真空のエネルギーの暴走によってその領域は瞬時に破壊される。
現代物理学が突きつける冷徹な結論は、「人間が過去へ戻るタイムマシンを作ることは極めて不可能に近い」というものです。だからこそ人類は、音楽や文学というイマジネーションの装置を通じて、失われた時間への旅を擬似体験し続けていると言えます。