アプローチから飛び出した瞬間、選手を包み込むのは目に見えない空気の壁だ。スキージャンプにおいて、スーツが果たす最大の役割は「揚力」の獲得にある。身体の前面で風を受け止め、浮力を生み出しながら、前進を妨げるドラッグ(空気抵抗)を最少化する。この極限状態のエアロダイナミクスこそが、大ジャンプの根幹を支えている。
素材はスポンジ状のウレタンフォームを裏地にあしらった特注の生地。通気性の基準はきわめて厳格に定められており、風を通しすぎれば失速し、逆に通さなさすぎれば失格の対象となる。空気を一枚のフィルムのように捉え、効率よく揚力を維持するデザイン。そこには、人体の骨格と筋肉の動きまで計算し尽くされた高度な縫製技術が投入されている。