お札の入れ方を理解する上で最も重要な原則は、慶事(お祝い事)と弔事(お悔やみ事)でお札の向きが完全に対極になる点です。この相反するルールは、日本人が古来より受け継いできた「感情の可視化」という精神構造に起因しています。
まず、お札における「表」とは肖像画が描かれている面を指し、「裏」は鳳凰や建造物、富士山などが描かれている面を指します。天地については、肖像画の顔が位置する側が「上」となります。
ご祝儀袋のお札の入れ方では、中袋(中包み)の表側(金額や「寿」を記す側)に対して、お札の表面(肖像画)が向くように入れます。さらに、封筒の口を開けたときに肖像画の顔が最初に見える「肖像画が上」の配置に揃えます。これには「慶びに対して顔をしっかりと上げ、前を向いて祝福する」「晴れやかな門出を祝う」という意味が込められています。
対照的に、香典袋のお札の入れ方ではすべてが反転します。中袋の表側に対してお札の裏面を向け、肖像画を奥(中袋の裏側)に配置します。さらに天地は「肖像画が下(底側)」になるよう差し込みます。この作法の本質は、「悲しみに暮れて顔を伏せる」「突然の凶報に言葉を失い、顔を見せることすら憚られる」という遺族への深い弔意の表明です。
複数枚のお札を包む場合は、すべての紙幣の向き(表裏・上下)を完全に一致させることが大原則です。不揃いな状態で包むと、受け取った相手が開口一番で乱雑な印象を抱き、形式を軽視していると受け取られかねません。