医学的な数値が安全を示している一方で、実際の生活者の現場ではどのような心理的葛藤が起きているのでしょうか。SNSやネットの質問掲示板、健康管理アプリのコミュニティを定点観測すると、数字を知らないがゆえの悲痛な声が毎日のように投稿されています。
「会社の健診で尿酸値7.4を叩き出し、大好物の明太子ご飯と明太子パスタを涙ながらに断食中」
「飲み会で『痛風鍋(白子・あん肝・明太子)』を勧められたが、恐怖で箸をつけられなかった」
「主人が尿酸値を気にして明太子を避けているので、代わりにヘルシーだと思って鶏ささみや納豆ばかり出している」
ここには典型的な「認知の歪み」と「情報の非対称性」が存在します。多くの愛好家が、プリン体の少ない明太子を強烈な罪悪感とともに我慢する一方で、プリン体が100gあたり150mg前後含まれる鶏ささみや、プリン体・アルコール代謝を急加速させるビールを無防備に摂取しているのです。
筆者が取材した都内の内科・痛風専門クリニックの現場医師も、次のように苦笑交じりに語っています。
「毎年の健康診断シーズンになると『明太子を一生食べられないのでしょうか』と深刻な面持ちで相談に来る患者さんがいます。しかし、カルテの食事記録を精査すると、問題なのは明太子ではなく、週末に飲んでいる何杯もの生ビールや、締めの大盛りラーメン、そして日常的な野菜・水分の摂取不足です。明太子を悪者にして精神的なストレスを溜め込むのは、治療の観点からも本末転倒と言わざるを得ません」
我慢のストレスが爆発し、反動でアルコールや揚げ物を暴飲暴食してしまえば、それこそが痛風発作への最短ルートとなります。事実に基づかない過剰な自己規制は、かえって生活習慣病のコントロールを狂わせる結果を招いているのが現場の実態です。