鬼道の中でも高位に位置する九十番台は、並の隊長格であっても発動自体が極めて困難とされる領域です。藍染惣右介が空座町決戦の最終局面において、完璧な集中と霊圧を注ぎ込んで紡ぎ出した黒棺の完全詠唱全文は以下の通りです。
【破道の九十「黒棺」 完全詠唱】 「滲み出す混濁の紋章 湧き上がり否定し 痺れ瞬き 眠りを妨げる
爬行する鉄の王 絶えず自壊する泥の人形
結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ
破道の九十・黒棺」
この詠唱文は単なる語感の良さだけでなく、黒棺の呪文の意味を深く考察すると、術式がもたらす現象そのものを冷徹に定義していることが読み取れます。
冒頭の「滲み出す混濁の紋章」から「眠りを妨げる」までの節は、術者の周囲で黒紫色の超高密度霊圧が物質化し、静寂を侵食していく空間の歪みを示唆しています。続く「爬行する鉄の王 絶えず自壊する泥の人形」という強烈な対比表現は、絶対的な質量(重力)による支配と、それに耐えきれず崩壊していく対象(人間や死神の肉体)の脆弱性を描き出しています。
そして最後の「結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ」という言霊によって、空間内部の引力と斥力が極限まで圧縮され、対象を光すら脱出できない漆黒の重力立方体へと閉じ込めるメカニズムが完成します。久保帯人氏の卓越した言語感覚によって、術者の絶対的な優位と犠牲者の絶望が完璧に定式化されています。