野球界の不文律とされてきた「投手=9番」を疑い、8番ピッチャーの理由を論理的に解明したパイオニアとして知られるのが、セントルイス・カージナルスなどを率いた名将トニー・ラルーサです。ラルーサは1998年、強打のマーク・マグワイアらを擁する強力打線の得点効率を極大化するため、本格的に投手を8番に据えるオーダーを試行しました。その後、2015年にシカゴ・カブスを率いたジョー・マドン監督がこのシステムを導入し、球界に大きな衝撃を与えました。
ジョー・マドン戦略の根底にあったのは、極めてシンプルな数学的思考です。マドンは当時の米国メディアの取材に対し、「9番に投手を置くと、投手で攻撃が途切れた後に1番打者がランナーなしの状況で打席に入ることがあまりに多い。出塁率の高い野手を9番に置けば、1番打者は常に走者を置いた状態で迎えられる」と語っています。つまり、従来の1番・2番・3番という「1つの得点ブロック」に対し、9番・1番・2番・3番という「拡大された得点ルート」を創出することこそが狙いでした。
日本のプロ野球においてこの概念を広く定着させたのが、横浜DeNAベイスターズを率いたアレックス・ラミレス監督です。ラミレス監督による8番ピッチャー起用は、2017年の日本シリーズ進出や2018年シーズンの戦術的アイコンとなりました。ラミレスは自著や記者会見で「8番に投手を置くことで、9番に座る倉本寿彦や大和が出塁し、1番の桑原将志、2番の筒香嘉智やネフタリ・ソトにチャンスで回す確率を格段に上げられる」と明確なビジョンを明かしていました。
このように、セ・リーグの投手打順における変革は、投手の打撃力に期待しているのではなく、9番打者の役割を従来の「下位打線の残り」から「上位打線への着火点」へと再定義したことに本質があります。