ナックルボールがなぜ打者の直前で激しく揺れるのか、その謎は空気力学によって説明されます。通常のストレートや変化球は、ボールに強いバックスピンやサイドスピンを与えることで生じる「マグヌス効果」を利用して軌道を曲げます。これに対して、ナックルが不規則に揺れる理由は、スピンを極限まで排除することで発生する「非対称な空気流の剥離」にあります。
ボールがマウンドからホームベースに到達する約0.4〜0.5秒の間に、回転数が「0.5回転から1.5回転程度」の超低スピン状態にあるとき、球表面の縫い目(シーム)が受ける空気抵抗が左右・上下で著しく偏ります。空気の流れがボール背面に回り込む際、縫い目がある側と滑らかな革の面とで空気の剥離ポイントが不規則にズレ、ボールの後方に「カルマン渦」と呼ばれる空気の渦が交互に発生します。この微細な乱流の発生位置が移動し続けることこそが、ナックルボール変化の仕組みの根幹です。
投球軌道において揚力と抗力のバランスがミリ秒単位で崩れるため、ボールは左右へのスライド、急激なドロップ、あるいはホップするような錯覚を与える不規則なステップを踏みます。完全なゼロ回転よりも「プレートから捕手までで半回転〜1回転ほど極めてゆっくりと回る球」が最も激しい変化を示すことが、近年の高速度カメラや弾道測定器のデータでも実証されています。