かつて日本初の電気冷蔵庫を世に送り出し、白物家電のパイオニアとして君臨した東芝。その白物家電事業がなぜ中国企業に渡ることになったのか、その歴史的背景を正しく整理しておく必要があります。発端は、2015年に発覚した東芝本社の不正会計問題と、米国原子力発電事業における巨額損失でした。グループ全体の財務危機を回避し、経営再建に向けた資本増強を急ぐため、東芝本体は優良事業の切り離しを余儀なくされたのです。
2016年6月、東芝は白物家電事業を担う子会社「東芝ライフスタイル株式会社」の株式の80.1%を約537億円で中国家電大手の美的集団(Midea Group)に譲渡しました。このディールにおいて重要なのは、東芝本体が19.9%の株式を保持し続けたこと、そして最長40年間にわたる「TOSHIBA」ブランドの世界的な使用権許諾が結ばれた点です。
一方、買収した美的集団側の狙いは極めて合理的でした。美的集団は世界トップクラスの生産台数と圧倒的なコスト競争力を誇る巨大コングロマリットでありながら、グローバル市場における「プレミアムブランドとしての信頼性」と「日本特有の高度な要素技術」を喉から手が出るほど求めていました。名門東芝のブランド力と、長年培われた省エネ・鮮度保持技術を手に入れることは、同社が単なる受託製造企業から世界的な高級家電メーカーへと飛躍するための決定打だったと言えます。