本作の歌詞が持つ最大の魔力は、語り手の視線が極めて素朴でありながら、聴き手の記憶を喚起する余白を意図的に残している点にあります。桑田佳祐が描く言葉のパレットを紐解いていくと、単なる甘いラブソングとは一線を画す、人間の不器用さと誠実さが浮かび上がってきます。
歌い出しから描かれるのは、決して大げさな誓いやドラマチックな事件ではありません。日々の暮らしの中で見落としてしまいそうな些細な時間、すれ違い、そして自分を陰ながら支えてくれた相手に対する気付きです。歌詞中には「幼い頃」の情景や、月日の流れの速さを痛感するフレーズが散りばめられており、これが多くのリスナーに「親子の物語」としての解釈を自然と抱かせます。
日本人の対人コミュニケーションにおいて、もっとも親しい存在(特に両親や長年のパートナー)に対して改まって感謝を口にすることは、文化的に強い心理的抵抗を伴います。本作の歌詞は、そうした「言いたくても言えなかった悔恨」と「今この瞬間だからこそ伝えたい切情」を、「花束」という実体のある象徴物に託す構造を持っています。桑田佳祐というソングライターは、日常会話では気恥ずかしくて口に出せない「ありがとう」の重みを、優美な旋律でコーティングすることによって、誰もが心を通わせられるパブリックな言葉へと昇華させたのです。