「隙間が空いているのだから、ぴったり埋めたほうが埃も入らず合理的」という言説は、家電工学の観点からは明らかな誤解です。一般社団法人日本電機工業会(JEMA)や主要家電メーカーの据付説明書を確認すると、現行のファミリー向け冷蔵庫のほとんどは「側面および天面放熱」方式を採用しており、左右に最低5mm〜15mm、上方には50mm〜100mm以上の放熱スペースを確保することが明確に義務付けられています。
この放熱空間を密閉性の高い木製ラックなどで完全に塞ぐと、冷蔵庫のコンプレッサーに過剰な負荷がかかり続けます。その結果、庫内を冷やすための消費電力が跳ね上がり、年間電気代が約5%〜10%余計にかかるばかりか、コンプレッサーの寿命そのものを縮める原因となります。「断熱シートを貼れば熱は遮断できる」というネット上のDIYアドバイスも見受けられますが、これは完全な逆効果です。断熱シートを貼ると冷蔵庫側面の放熱が妨げられ、熱が機械内部に滞留してしまいます。必要なのは断熱ではなく、「熱を逃がすための空気の自然対流ルート」です。
さらに見過ごせないのが、「収納物に対する熱害と衛生リスク」です。コンプレッサー稼働時、冷蔵庫の側面温度は季節によって40℃近くまで上昇することがあります。この熱を受け続ける隙間収納に、常温保存を前提とした食用油、みりん、醤油などの調味料やワインを長期間置いておくと、熱による酸化や風味の劣化が急速に進行します。また、冷蔵庫と壁の隙間は静電気で埃が吸着しやすく、排熱による温風が埃を巻き上げるため、ダニやカビの温床になりやすい環境でもあります。収納するアイテムの選定と、定期的に引き出して掃除できるメンテナンス性の確保が不可欠です。