ネット上のコミュニティ等では「黒死牟はただ弟を妬んで家族を捨てた極悪人」と単純化されがちですが、原作者・吾峠呼世晴氏が描いた内面ははるかに多層的で哀愁に満ちています。
その最大の証拠が、黒死牟がなぜ数百年間も「弟の手作りの笛」を大切に懐に持ち続けていたのかという点です。
80歳を超えた老齢の縁壱と再会した際、黒死牟は圧倒的な力で圧倒され、次の一撃で首を切り落とされる寸前まで追い詰められました。しかし縁壱はその瞬間に寿命を迎え、立ったまま息を引き取ります。怒りと屈辱に任せて弟の遺体を切り裂いた黒死牟の目に飛び込んできたのは、幼少期に自分が与え、縁壱が生涯肌身離さず大切に持っていたあの粗末な木彫りの笛でした。
黒死牟はその笛を切り捨てることも捨てることもできず、自らの着物の内側にしまい込み、死ぬ瞬間まで持ち歩いていました。彼が求めていたのは、単なる弟の死や破壊ではなく、「弟と同じ高みに立ち、対等な存在として認められたかった」という純粋すぎる憧憬だったのです。