なぜ細い蜘蛛の糸は切れてしまったのでしょうか。物理的な重量超過ではなく、物語の核心はカンダタの「利己心(我執)」の発露にあります。
多くの罪人がぶら下がった時点では、糸はびくともしていませんでした。極楽の蜘蛛の糸は、仏の慈悲によって支えられた超越的な存在であり、物理的な重さだけで切れるものではなかったと考えられます。糸が切断された決定的なトリガーは、カンダタが「こら、罪人ども、この蜘蛛の糸は己(おれ)のものだぞ」と叫び、他者を切り捨てようとした瞬間にありました。
お釈迦様の意図は、カンダタに「他者と共に救われる心」があるかを試す点にありました。カンダタが蜘蛛を助けたのは単なる気まぐれだったかもしれませんが、それは「他者への慈しみ」の萌芽でした。しかし、極限状態に置かれたカンダタは、他者を排除して自分だけが助かろうとする浅ましい我執を剥き出しにしました。その狭隘な心が、自らを支えていた救いの糸を自ら断ち切る結果を招いたのです。