寿司ネタとして並ぶトリ貝を見て、まず目を引くのが三角形に開かれた足(斧足)の先端にある艶やかな黒褐色です。この特徴的な姿を持つ貝がなぜ「トリ貝」と名付けられたのかについては、主に2つの有力な説が語り継がれています。
ひとつは、殻から突き出る足の形が「鳥のクチバシ」に酷似しているという形態的な理由です。もうひとつは、独特のシコシコとした心地よい歯ごたえと淡白ながら奥深い風味が「鶏肉の味に似ているから」という食味由来の説です。古くから日本人に親しまれてきた歴史が、その呼び名にも色濃く反映されています。
トリ貝の表面を覆う黒い色素は非常にデリケートで、少しの摩擦や下処理の粗さで簡単に剥がれ落ちてしまいます。この黒い皮膜がしっかりと残り、濡れたような光沢を放っている個体こそ、職人が丁寧に扱った鮮度の高い上質なトリ貝の証です。