衛生上の敵として忌み嫌われる一方で、現代医療の最前線では「奇跡の執刀医」として重用されている。それが無菌培養されたハエ幼虫を用いる治療法、マゴットセラピー(MDT)だ。重度の糖尿病性足部潰瘍や、抗生物質が効かない多剤耐性菌(MRSA)に侵された難治性創傷に対して圧倒的な成果を上げている。
この治療の起源は古く、1920年代に米国の整形外科医ウィリアム・ベアが戦傷兵の傷口治療において幼虫の有用性を発見したことに端を発する。幼虫は健康な皮膚組織を絶対に傷つけず、壊死した病変組織だけを選んで分泌液で溶かしながら貪食する。さらに強力な抗菌物質を含む唾液を放出し、組織の再生を劇的に促進させるのだ。
世界中で多剤耐性菌の脅威が深刻化するなか、WHO(世界保健機関の報告でも化学薬品だけに頼らない代替療法の重要性が叫ばれている。急速に市場を拡大する医療・ヘルスケア産業においても、再生医療や高度創傷管理の一環として、この生物学的治療システムの応用研究が加速している。