1990年代半ば、日本のテレビドラマ制作における恋愛劇のパラダイムシフトを決定づけたのが、TBSテレビで放映された『愛していると言ってくれ』だった。聴覚に障害を持つ青年画家と、女優を目指す劇団員。音のない世界に生きる主人公・榊晃次を演じた豊川悦司の色気と脆さは、視聴者を激しく惹きつけた。
特筆すべきは、セリフの量を極限まで削ぎ落とすことで、逆に「言葉」の重みを際立たせた脚本構成だ。手話の身振り、すれ違う視線、ファックス用紙に走るフェルトペンのインク。日常の細やかな情景が、極上のラブレターへと昇華されていく。北川は当時、登場人物たちの沈黙にこそ感情の本質を宿らせた。過剰な説明台詞を嫌い、役者の肉体と間(ま)に物語を委ねる手法は、当時のテレビドラマ界に鮮烈な衝撃を与えたのである。