大半の痛みは時間の経過とともに和らいでいきますが、放置すると関節機能を破壊し、取り返しのつかない事態を招く合併症が潜んでいることも事実です。特に注意すべきは、人工膝関節の緩みと感染の症状です。
人工関節周囲感染(PJI)は、インプラント表面に細菌がバイオフィルム(強固な細菌の膜)を形成する難治性の病態です。「一度落ち着いていた膝の熱感や赤みが再び強くなった」「動かさなくてもズキズキ痛む」「夜間にズキズキして眠れない」「37度台の微熱がダラダラ続く」といった症状が現れた場合、一刻の猶予も許されません。市販の痛み止めや抗生物質を自己判断で服用すると原因菌の特定が困難になり、治療が長期化するため、直ちに執刀医のもとへ駆け込む必要があります。
一方、インプラントの緩み(ルーズニング)は、骨と金属の間で固定性が失われる現象です。荷重時に「骨がグラつくような感覚」や「ズシッと突き刺さるような鋭い痛み」が走るのが典型例です。また、人工膝関節の術後に痛み止めが効かないと訴える患者のなかには、NSAIDs(ロキソニンやセレコックスなど)が効果を示さない神経原性の痛み、すなわち人工膝関節術後の神経痛やしびれが主体となっているケースが多々見受けられます。痛みのメカニズムに応じた投薬変更(プレガバリン、デュロキセチンなどへの切り替え)を行わない限り、漫然と同じ消炎鎮痛剤を飲み続けても胃腸を荒らすだけに終わりかねません。
最終的に、骨融解が進んだ場合やアライメント不良、難治性感染に陥った場合は、人工膝関節の再置換術の判断基準に該当することになります。再置換術は初回手術に比べて骨欠損の補填や軟部組織の再建を伴うため難度が高くなります。だからこそ、初期の微細なサインを見逃さず、早期に確定診断をつけることが決定打となります。