整然とした陳列と効率的なオペレーションを美徳とする日本の小売業界において、ドン・キホーテの売り場は完全に異質です。天井近くまで商品が積み上げられた「圧縮陳列」、手書きの極太文字が躍る「手書きPOP」、迷路のように入り組んだ通路――一見すると非効率の極みとも思えるこの空間設計こそが、消費者の脳内にドーパミンを放出させる計算し尽くされた仕掛けです。
行動経済学や消費者心理学の観点から見ると、ドン・キホーテの店内は「宝探し(トレジャー・ハンティング)効果」を極大化するように設計されています。どこに何があるか一目でわからないからこそ、客は通路を彷徨い、偶然掘り出し物を見つける快感に浸ります。その結果、本来買う予定のなかったアイテムまでカゴに入れてしまう「計画外購買率」が跳ね上がるのです。
圧倒的な安さを維持できる最大の秘密は、徹底した「個店主義」と「スポット仕入れ」にあります。一般的なチェーン店では本部のバイヤーが一括で商品を買い付けますが、同社では各店舗の担当者に仕入れと価格決定の大胆な裁量権(エンパワーメント)が与えられています。メーカーが抱える季節外れの在庫やパッケージ変更前の滞留品を、店舗責任者がその場で現金決済に近い形で大量に買い叩くため、驚異的な値引き価格が実現する仕組みです。