息を引き取った後、無一郎の意識は三途の川とおぼしき彼岸の空間へと移行します。そこで待っていたのが、11歳のときに鬼に襲撃されて命を落とした双子の兄・時透有一郎でした。
再会の瞬間、有一郎は弟を優しく迎えるのではなく、「何でお前がこっちに来るんだよ! 逃げればよかっただろうが!」「お前が死んだら何にもならないじゃないか!」と激しい怒りの言葉を浴びせます。14歳で凄惨な死を遂げた弟へのやるせなさと、もっと長く生きてほしかったという痛切な愛情の裏返しでした。それに対し、無一郎は静かに涙を流しながら問いかけます。
「僕は……何のために生まれてきたの?」「無駄死にだったのかな?」
この問いに、有一郎はたまらず無一郎を強く抱きしめ、涙を流しながら叫びます。「そんなわけあるか! お前がそんなこと言うな!」「無駄死になんて言わせない、お前のおかげで仲間が勝てたんだ」と。そして、無一郎が遺した最後のモノローグと告白は、本作屈指の涙腺崩壊シーンとして語り継がれています。
「僕は幸せだったよ。家族四人で暮らした時も、一人ぼっちになって苦しくて辛かった時も、鬼殺隊に入って仲間ができた時も……僕は一度だって不幸だと思ったことはない。幸せになるために生まれてきたんだ」
記憶を失い「他人に冷酷な合理主義者」に見えた無一郎が、本来の心を取り戻し、自らの命の意味を他者の評価ではなく「自分自身の幸福」として肯定して旅立つ。かつて兄が遺した「無一郎の無は、無限の無なんだ」という言葉の通り、彼の短い生涯は無限の愛と誇りに包まれて幕を閉じました。