動物ばかりが注目されがちな生類憐れみの令だが、その条文を精読すると、驚くべきことに現代の社会福祉政策の原形が浮かび上がる。そこには、身寄りがない乳幼児の保護、行倒れた旅人の救護、高齢者の放置禁止など、人間を救うための条項がずらりと並んでいた。
例えば、捨て子を発見した場合、発見者はただちに役所に届け出て保護しなければならなかった。妊婦の登録制度や流民の救済措置も整備された。さらに、江戸の町中に溢れて野犬化していた犬を収容するため、中野などに膨大な敷地を持つ巨大な犬屋敷が建設された。これは狂犬病の感染防止や市民への犬害を防ぐ公衆衛生事業としての側面も強く、世界的に見てもきわめて先進的な都市管理政策であった。