安倍文殊院を語る上で欠かせないのが、本堂に堂々と安置されている「国宝 木造騎獅文殊菩薩及侍者像」です。鎌倉時代の建仁3年(1203年)頃、東大寺復興にも携わった大仏師・快慶が工房を率いて造立した傑作群で、計5躯すべてが国宝に指定されています。
獅子の背に乗り、右手に降魔の利剣、左手に慈愛を説く蓮華を持つ文殊菩薩の像高は約7メートル(獅子と台座を含む)にも及び、渡海文殊群像としては日本最大を誇ります。その周りを先導役の善財童子、優填王(うてんおう)、仏陀波利三蔵(ぶっだはりさんぞう)、最勝老人(さいしょうろうじん)が囲み、雲海を渡って説法の旅へと赴く躍動的な瞬間が見事に表現されています。玉眼(ぎょくがん)が放つ静謐で鋭い眼差しは、仏像の前に立つ参拝者を圧倒します。
さらに、同寺は陰陽道で名高い安倍晴明の生誕地としての伝承地でもあります。境内奥の丘には、晴明が陰陽道の修行や天体観測を行ったとされる「安倍晴明堂」や展望台が整備されています。晴明堂には魔よけのシンボルである「五芒星(セーマンドーマン)」が随所に施されており、近年では歴史ファンや占術愛好家の聖地巡礼スポットとしても注目を集めています。