被害に遭った2億9430万円のうち、500円札の2,000枚(計100万円分)については製造番号が記録されていた。警視庁はこのナンバーリストを速やかに全国の銀行や商店、遊技場に配布し、一斉の手配を敷いた。理論上、犯人がこの500円札を使えば即座に足がつくはずだった。
だが、このナンバーリストは期待された効果を発揮しなかった。実際に店頭で受け取ったお札の番号を一枚一枚照合する作業は、多忙な現場にとって過度の負担であり、見過ごされるケースが相次いだ。さらに深刻だったのは、残りの1万円札や2,000円分相当の1,000円札など、大部分の紙幣にはナンバーの記録が一切なかったことだ。結果として、犯人側はお札を無理に使用する必要すらなく、保管し続けるか、あるいは別の資産へと変えやすい状態に置くことができた。紙幣追跡という当時の最新捜査手法は、現実の流通機構の壁に阻まれて機能不全に陥ったのだった。