本作が放送当時から高い評価を集めた最大の要因は、主要キャストたちが役柄に対して注ぎ込んだ並々ならぬ熱量にあります。報道各社のインタビューや当時のメイキング映像でも、キャスト陣が単なる「歴史上の偉人」ではなく、血の通った人間として役を生きようとしていた現場の空気が克明に記録されています。
主演を務めた綾瀬はるかさんにとって、八重という役柄はそれまでの親しみやすいイメージを覆す大きな挑戦でした。重さ約4キログラムにも及ぶ実物大のスペンサー銃を自在に構えるため、撮影前に入念な筋力トレーニングを重ね、腕立て伏せを日課にしていたエピソードは有名です。鶴ヶ城籠城戦における鬼気迫る銃撃シーンで見せた眼光の鋭さは、視聴者のみならず制作陣をも圧倒しました。一方で、後半の京都編で見せた夫・新島襄とのユーモラスで対等なパートナーシップは、綾瀬さん本来の温かみと見事に融合し、近代的女性像を軽やかに体現していました。
また、八重の人生の導き手となる兄・山本覚馬を演じた西島秀俊さんの存在感も際立っていました。第1話や前半の修行シーンで披露された鍛え抜かれた肉体美は、当時SNSやメディアで「CGではないか」と騒然となるほどの衝撃を与え、西島さんのストイックな役作りが広く知られる契機となりました。しかし、真の真骨頂は肉体美だけでなく、鳥羽・伏見の戦いで捕縛され、幽閉のなかで視力を失い、足の自由を奪われながらも『管見』を口述筆記させた不屈の精神描写にあります。絶望の淵から這い上がり、知性をもって京都の復興に尽力する覚馬の姿は、視聴者の魂を大きく揺さぶりました。
そして、悲劇の夫・川崎尚之助を演じた長谷川博己さんの好演も見逃せません。放送当時、歴史的には無名に近かった尚之助ですが、長谷川さんの理知的な佇まいと八重への不器用な深い愛情表現によって、一躍人気キャラクターへと押し上げられました。鶴ヶ城での砲術指導、そして敗戦後に会津藩の身代わりとなって借金裁判を一手に引き受け、獄死していく尚之助の壮絶な生き様は、大河ドラマ史に残る切ない愛のドラマとして語り継がれています。