昭和から平成にかけての日本のテレビCMは、高倉健さんや松田優作さんのように「一人のスターが10年以上にわたって同じ商品を背負い続ける」スタイルが主流でした。しかし令和の広告戦略は、単一のイメージに依存することを最大のリスクと捉えます。
心理学において、消費者がキャラクターに対して抱く愛着は「疑似パラソーシャル関係(擬似的な対人関係)」と呼ばれます。吉岡里帆さんのどんぎつねは、この親密性を極限まで高めた傑作でした。しかし、親密性が高まりすぎると、演者の実生活の変化(共演者の結婚やタレントの独立・年齢変化)によってファンが受ける裏切り感や喪失感(いわゆる「ロス」現象)もまた大きくなります。
日清食品が取った戦略は、この共依存的な愛着を巧みに回避するものでした。初代の物語をきれいに完結させ、アニメで抽象化し、アンミカさんでパロディ化し、出口夏希さんで新世代の風を入れる。この一連の流れは、ブランドを「マルチバース(多元世界)」化することで、寿命を半永久的に延ばす高度なマーケティング手法です。
このどん兵衛の変遷を楽しむにあたり、受け手側にも以下のような向き・不向きの基準が存在します。
【このCMシリーズの変遷を心から楽しめる人】
日清食品特有の「お約束をぶち壊すパロディ精神」を面白がれる人や、時代とともに交代していく次世代スターの登竜門としてフレッシュな演技を楽しめる視聴者。
【少し距離を置いた方がストレスのない人】
2017年当時の「星野源×吉岡里帆」の切なくも微笑ましい世界観こそが唯一無二の正解であり、設定変更や過激なギャグ演出に強い違和感を抱いてしまう純粋なストーリー愛好者。