かつて千葉県船橋市は、東京のベッドタウンとして急速な発展を遂げる一方で、独自のサブカルチャーや娯楽施設が花開いた街でもあった。その中心に鎮座していたのが、圧倒的なスケールを誇る興行場である。場内に一歩足を踏み入れれば、ビロード張りの赤いシート、煙草の煙がほのかに染みついた天井、手書きの看板が放つ独特の色彩が、訪れる人々を一瞬で別世界へ誘っていた。
単なる映画上映の場にとどまらず、地元の若者やクリエイターが集う文化の溜まり場として機能していた事実は見逃せない。映画評論家や文人が夜な夜な議論を交わし、昭和レトロカルチャーの熱源として機能していた時代。そこにはデジタル配信では決して代替できない、泥臭くも濃密な「空間の体験」が存在したのだ。