20世紀初頭、台湾の九份や金瓜石を舞台に黄金と石炭の王国を築き上げたのが基隆顔家だ。台湾五大家族の一角として政財界に絶大な影響力を持ち、傘下の台陽鉱業は当時の台湾経済を牽引する巨大コンツェルンだった。その直系長男として生まれた顔恵民は、まさに名門の未来を一手に背負う宿命を帯びていた。
幼少期から徹底した英才教育を受け、名門・学習院へ留学。流暢な日本語を操り、洗練された帝都の文化を呼吸して育った。しかし、太平洋戦争の終結と国民党政権の到来が、その運命の歯車を狂わせていく。栄華を極めた一族の資産は政治の混乱の中で変質を余儀なくされ、青年・顔恵民の前に立ち塞がったのは、昨日までの日常が根底から覆る過酷な現実だった。