田沢湖の象徴として親しまれるたつこ像のルーツは、この地に古くから伝わる「辰子姫伝説」にあります。かつて田沢の院内集落に住んでいた辰子は、類まれな美貌を持つ純真な乙女でした。しかし、彼女はその美しさがいつか衰えてしまうことを極度に恐れ、永遠の若さと美貌を保ちたいと切望するようになります。
辰子は大蔵観音へ百日百夜の願掛けを行い、満願の夜に「北に湧き出る霊泉の水を飲め」という神託を授かりました。険しい山を越えて泉を見つけ出した辰子は、夢中でその水を口に含みます。ところが、飲めば飲むほど喉の渇きは激しさを増し、狂ったように水を飲み続けるうちに、辰子の体は次第に鱗に覆われ、巨大な龍へと変貌してしまったのです。
変わり果てた我が子の姿を知った母親が絶望し、手にしていた松明を湖に投げ捨てたところ、それが魚になって泳ぎ出したという伝説が田沢湖の固有種「クニマス」の起源とも言われています。自らの強い執着によって人間界へ戻れなくなった辰子は、そのまま深い田沢湖の底へと沈み、湖の主(龍神)として永遠に湖を守る存在となりました。