猗窩座の戦闘スタイルの根幹を成す「術式展開」とは、自身の血鬼術を最大限に励起するためのトリガーです。腰を深く落とし、右拳を突き出して左掌を引く素流(そりゅう)の構えとともに「術式展開・破壊殺 羅針」と呟くことで、術者の足元に十二角の雪の結晶を模した羅針盤が展開されます。
この血鬼術の核心は「闘気の完全感知」にあります。作中における「闘気」とは、生命が敵意、殺意、戦意、あるいは生存本能から無意識に放ってしまう生体エネルギーのようなものです。猗窩座はこの闘気を、方位磁針が地磁気を捉えるがごとく瞬時に捕捉します。相手が強大であればあるほど、放たれる闘気は濃密かつ鮮明になり、羅針による感知精度は跳ね上がります。
特筆すべきは、羅針が単なるレーダーにとどまらない点です。相手がどの方向から、どの程度の速度と威力で、人体のどの急所を狙って攻撃を仕掛けてくるかが、初動の筋肉の緊張や闘気の揺らぎから即座に逆算されます。その結果、猗窩座の肉体は思考を介することなく反射的に最適解の防御・迎撃運動へ移行します。これが、死角からの不意打ちや超高速の連撃すら容易にいなしてしまう「破壊殺・羅針の仕組み」の正体です。
煉獄杏寿郎との死闘においても、炎の呼吸が誇る苛烈な斬撃がことごとく腕の側面で弾かれ、あるいは急所を外されたのは、煉獄が放つ凄まじい闘気を羅針が余すところなく捉え続けていたためでした。武を極めんとする強者ほど強い闘気を発してしまうという、戦士の宿命そのものを逆手に取ったチート能力だったと言えます。