日常の会話で頻出する「あれ」「それ」といった指示代名詞の急増は、神経心理学において語想起障害(名詞の検索困難)と呼ばれる初期症状と深く結びついています。側頭葉や海馬周辺の神経ネットワークに負荷がかかると、脳内に蓄積された長期記憶の引き出しから固有名詞を瞬時に引き出す処理速度が低下します。その結果、会話のリズムを止めまいとして無意識に代名詞で間を埋める現象が定着してしまうのです。
さらに警戒すべきは、かつて几帳面だった人が発する「めんどくさい」「もうどうでもいい」という口癖です。単なる性格の変化や老化の愚痴と受け取られがちですが、大脳の前頭葉、とりわけ意欲や自発性を司る領域の機能低下によって生じるアパシー(無為・無関心)という精神症状の現れです。趣味や身だしなみへの関心が急速に薄れ、外部からの刺激に対して億劫さを訴えるのは、脳がエネルギーを節約しようとする防衛反応の一種でもあります。
また、失敗を指摘された際に「最初からそう頼まれていない」「知っていたけれどあえてやらなかった」と強弁するのも、初期特有の口癖です。これは医学的に取り繕い反応(Confabulation)と呼ばれ、本人が自身の認知機能の低下に無意識の恐怖を感じ、自尊心を保つために咄嗟に辻褄を合わせようとする心理的防衛機制が働いた結果に他なりません。