ピッチの映像が消えたにもかかわらず、ニコ生からサッカーファンが完全に消え去ったわけではありません。むしろ「映像を一切流さない」という制約を逆手に取り、独自の発展を遂げたのが「同時視聴(ウォッチパーティー)」という配信カルチャーです。
その牽引役となったのが、ニコニコ生放送の黎明期から圧倒的な支持を集める配信者・加藤純一氏です。日本代表の命運を分けるW杯アジア予選や本大会の夜、彼の配信画面に映し出されるのは、ストップウォッチと試合のスコアボード、そしてモニターを見つめながら一喜一憂する配信者本人の顔だけです。
「おい、今のパス誰だよ!」「頼む、そこは決めてくれ!」——感情をむき出しにして叫ぶ生主の姿に呼応するように、視聴者は自宅のテレビやスマホのDAZNで試合を見ながら、ニコ生のコメント欄に自らの感情を書き込みます。ゴールが決まった瞬間に数十万のコメントが一斉に画面を埋め尽くす光景は、公認の公式放送以上に濃密な一体感を生み出しています。
SNSや掲示板の書き込みを分析すると、次のようなリアルなリスナー心理が浮かび上がってきます。
「解説者の紋切り型の無難なコメントを聞くより、好きな配信者がファン目線で本気でキレたり歓喜したりしている声を副音声にしたほうが何倍も試合に熱中できる」「一人暮らしの部屋でビッグマッチを見るのは寂しいが、ニコ生の同時視聴枠を開いておけば、まるで友だちの家に集まって観戦している気分になれる」
映像を配信者が提供するのではなく、「各々が正規の有料配信で映像を確保し、感想とリアクションだけをニコ生で共有する」という棲み分け。これこそが、著作権規制と放映権高騰の荒波を生き残ったニコ生サッカーの現在形です。