軍儀世界王者コムギの強さは単なる才能にとどまらず、生命力を盤面に注ぎ込む狂気と紙一重の集中力にありました。メルエムとの連日に及ぶ長時間の対局の最中、彼女は無意識のうちに念能力を覚醒させます。系統としては特質系あるいは強化系・操作系の複合と推測されますが、目が見えない彼女の瞳が見開かれ、駒から放たれるオーラを直感的に知覚する描写は、天才芸術家や棋士が極限状態で見せる「ゾーン」の極限形態でした。
この対局で重要な役割を果たしたのが、かつてコムギ自身が創案した軍儀の技「孤狐狸固(ここりこ)」です。孤狐狸固とは、盤面の端に位置する孤立した駒を拠点に反撃を狙う奇手であり、コムギが新手を編み出した後に他棋士によって破られ、一度は「死んだ技」として葬り去られた戦術でした。メルエムはこの捨て去られた技を自らの知略によって再発見し、コムギに突きつけることで盤上の勝利をもぎ取ろうと試みます。
しかし、コムギは涙を流しながらその手を返し、かつて自分が孤狐狸固の破綻に直面した際に生み出していた「さらなる返し技」を展開しました。自らが産み落とし、自ら葬り去った子をもう一度自らの手で討つような盤上の交差――。この瞬間、メルエムは力や知略の誇示を超えて、コムギという魂が紡ぎ出す深遠な精神宇宙に圧倒され、彼女に対する純粋な敬意と守護の念を決定的なものとしました。