パリー食堂の魅力は、料理の味だけにとどまりません。昭和2年(1927年)頃に建てられた木造2階建ての看板建築は、近代建築ファン垂涎の遺産です。2001年(平成13年)には国の登録有形文化財に登録されました。
建物の正面を見上げると、アール・デコ調の直線的な幾何学レリーフや、波を打つようなモルタルの装飾が施されています。軒下には誇らしげに「カフェー・パリー」の文字が刻まれ、かつて秩父織物で活況を呈した時代のハイカラ文化を今に伝えています。当時、織物取引の商談や地域の旦那衆が集まるサロンとして設計されたこの空間は、一般的な大衆食堂とは一線を画す風格を備えています。
引き戸を開ければ、昭和の映画セットそのままの土間、年季の入ったパイプ椅子、歴史を吸い込んだ古時計、そして静かに客を見守る看板猫の姿がありました。この「空間体験」そのものがかけがえのない文化遺産であり、単に食事を提供する場を超えて、訪れる人々に圧倒的なノスタルジーと安らぎを与えてきたのです。