結論から言えば、「マグロは泳ぎを完全に止めると死んでしまう」という話は、生物学的事実です。一般的な沿岸性の魚類(タイやコイなど)は、エラ蓋(えらぶた)を自力でリズミカルに開閉させ、口から水を吸い込んでエラへと送り出す「ポンプ換水」を行うことができます。そのため、海底や岩陰で完全に静止していてもエラ呼吸を継続することが可能です。
一方、マグロやカツオ、一部のサメ類(ホホジロザメなど)は、エラ蓋を動かす筋肉が退化しています。口を半開きにした状態で前進し、前方から押し寄せる水流をエラに直接通過させる「ラム換水(Ram ventilation)」と呼ばれる換水法に特化して進化を遂げました。自力で水を吸い込むポンプ機能を持たないため、推進力を失って静止した瞬間、エラへの酸素供給が断たれ、数分から十数分で低酸素状態に陥り窒息死に至ります。
また、マグロの比重は海水よりも重いため、浮袋の調節機能だけでは浮力を維持できません。胸ビレを水平翼のように広げ、常に揚力を発生させながら泳ぎ続けなければ、深海へと沈んでいってしまいます。呼吸と浮力の両面において、前進し続けることは生存のための絶対条件なのです。