役者としての輝かしい実績に加え、彼の晩年を代表する仕事となったのが、NHKのBSで長年にわたり愛された旅番組『にっぽん縦断 こころ旅』だ。相棒の自転車「チャリオ」とともに日本全国を走り、視聴者から寄せられた手紙の思い出の場所を訪ねる旅。そこにあったのは、演技を削ぎ落とした「素の火野正平」そのものだった。
坂道でハァハァと息を切りながら素直に弱音を吐き、途中で出会った地域の人々と気さくに言葉を交わす。路地裏で見かけた犬や猫に優しく語りかけ、ふらりと立ち寄った食堂で嬉しそうにメシを食う。かつての凄腕モテ男というイメージしか知らなかった若い世代も、この番組を通じて彼の飾らない人柄と、歳月を重ねて醸し出される枯れた味わいに魅了された。世代を超えて親しまれる、唯一無二の存在感を確立した瞬間だった。