デジタル上で音程を容易に補正できる現代のDAW環境とは異なり、90年代初頭のマルチトラック・レコーディングは真剣勝負そのものだった。
当時のエンジニアの証言によれば、稲葉と宇徳のセッションは息をのむほどの集中力に包まれていたという。稲葉がブースで歌い上げたばかりの直感的なトラックを聴き、宇徳が即座に最適な対立形(カウンターメロディ)を組み立ててマイクに立ち向かう。アナログテープ時代ならではの修正が効かない緊張感が、音源に独特の「生々しさ」と熱量を与えていた。プロフェッショナル同士のプライドが激突した瞬間だった。