蹴上エリアの魅力を深く味わうためには、明治初期に京都の存亡をかけて挑んだ一大土木事業「琵琶湖疏水」の歴史的文脈を理解することが欠かせません。東京遷都によって人口が激減し、産業が衰退の危機に瀕していた京都を復興させるため、第3代京都府知事・北垣国道と若き主任技師・田邉朔郎が主導して完成させたのが琵琶湖疏水です。
地下鉄蹴上駅の1番出口を出てすぐ左手にあるのが、不思議な螺旋状のレンガトンネル「ねじりまんぽ」です。「まんぽ」とは古い関西の方言でトンネルを意味し、上部を通るインクラインの線路にかかる巨大な荷重に耐えるため、レンガが斜めにねじれるように積まれています。内部を歩くと視覚が吸い込まれるような錯覚を覚え、土木工学の粋を集めた近代建築の造形美を間近に体感できます。
ねじりまんぽを抜けて北へ進むと、南禅寺の境内に入ります。木々の緑に囲まれた「水路閣」は、全長約93.2メートル、幅約4メートル、高さ約9メートルの重厚なアーチ構造。建設当時は「古寺の景観を損ねる」と強い反対運動が起きたものの、現在では130年以上の歳月を経て赤レンガに苔が生し、周囲の杉木立や禅宗建築と見事な調和を見せています。アーチの連続性を活かした額縁構図のポートレート撮影は、東山観光のハイライトと言えます。
また、日本初の事業用・営業用水力発電所として知られる「蹴上発電所」の遺構も必見です。ここで生み出された電力が日本初の路面電車を走らせ、京都の近代工業を支えました。水路閣の上を今なお琵琶湖の清流がサラサラと流れる音を聞きながら、先人たちの先進的な気概に思いを馳せることができます。