小栗旬が『コウノドリ』シーズン1(2015年)で演じたのは、ごく普通の会社員である永井浩之(ながい・ひろゆき)です。彼が巻き込まれる過酷な運命と、父親として再生していく軌跡は、ドラマ全体の縦軸として重要なメッセージを担っていました。
物語への初登場は第2話。臨月を迎えていた妻・晴美(演:臼田あさ美)が、交通事故に遭ってペルソナ総合医療センターへ緊急搬送されます。職場から血相を変えて駆けつけた浩之に対し、救急救命医の加瀬(平山祐介)と産科医のサクラ(綾野剛)から突きつけられたのは、「母体を優先するか、胎児(赤ちゃん)を優先するか」という、あまりにも残酷な究極の決断でした。
意識不明となった妻の前で取り乱し、絶望の淵に立たされた浩之は、激しい慟哭の末に「妻を助けてほしい」と懇願します。しかし、妻の脳死という非情な現実のなか、心肺停止寸前の母体から帝王切開で女児が取り上げられ、晴美は息を引き取ります。遺された浩之は、妻の命と引き換えに生まれた小さな命を前に、すぐには父親としての愛情を受け止めることができず、激しい自己嫌悪と悲痛な葛藤に苛まれることになります。
続く第6話では、退院した愛娘「芽依(めい)」を一人で育てるシングルファーザーとしての浩之の苦闘が描かれます。仕事を続けながらのワンオペ育児は限界に達し、職場の理解を得られず孤立していく浩之。保育園の空きは見つからず、夜泣きに追い詰められ、「自分がこの子を育てていく自信がない」とサクラに弱音を吐露する場面は、現代の子育て世代が直面するリアルな社会問題を克明に映し出しました。
そして第9話から第10話(最終回)にかけて、浩之は妻の実家の助けを借りながらも少しずつ前を向き、力強く歩み始めます。最終回では、すくすくと育った1歳の芽依を抱いてペルソナ総合医療センターを再訪。妻を看取ったサクラたち医療スタッフに笑顔で娘を紹介し、感謝を伝えるシーンは、視聴者全体に深いカタルシスと感動をもたらしました。