半保存的複製が細胞内で具体的にどのように進行しているのか、その分子メカニズムは極めて精巧です。複製起点においてDNAヘリカーゼという酵素が二重らせんをほどくことで、Y字型の「複製フォーク」が形成されます。
ここで主役となる酵素がDNAポリメラーゼです。DNAポリメラーゼは鋳型鎖の塩基を読み取りながら新しい鎖を合成していきますが、化学構造上の決定的な制約を持っています。それは、「新しい鎖を 5' 末端から 3' 末端の方向へしか伸長できない」という点です。
この方向性の縛りによって、ほどけていく2本の鎖で異なる合成方法がとられます。
リーディング鎖(先行鎖):
複製フォークが開いていく方向と同じ向き(5'→3')に合成できる鎖です。DNAポリメラーゼが途切れることなく連続的に合成を進めます。
ラギング鎖(遅れ鎖):
複製フォークの進行方向とは逆向きにしか合成できない鎖です。そのため、二重らせんがほどけるにつれて少しずつ短いDNA断片を逆向きに合成しては戻る、という不連続な複製を繰り返します。この短いDNA断片を発見者の名を取って「岡崎フラグメント(Okazaki fragment)」と呼びます。
日本人の分子生物学者・岡崎令治・恒子夫妻によって発見された岡崎フラグメントは、後にDNAリガーゼ(連結酵素)の働きによって隙間なく結合され、最終的に1本の完全なDNA鎖となります。