ナミとアーロンの因縁を語る上で避けて通れないのが、ココヤシ村を襲った悲劇の全貌です。かつて海軍将校だったベルメールは、戦場で瀕死の重傷を負いながらも、身寄りを失った赤ん坊のノジコとナミを拾い上げ、故郷のココヤシ村でみかん畑を営みながら実の娘として育てていました。決して裕福ではないものの、深い愛情に満ちた生活を送っていた一家の運命を狂わせたのが、グランドラインから東の海へと侵略してきたノコギリザメの魚人、アーロン率いるアーロン一味の上陸でした。
アーロンは人間を「下等種族」と見下し、暴力による絶対支配を宣言。村の全住民に対し、生き延びるための貢ぎ金として「大人1人10万ベリー、子供1人5万ベリー」という過酷な上納金を毎月支払うよう要求しました。当時の一家の蓄えはわずか10万ベリー。村人たちはベルメール1人分の金額として納め、幼い姉妹の存在を隠そうと画策しましたが、ベルメールは母親としての誇りを捨てませんでした。「誰が私の命の分だって言ったのさ」「その10万ベリーは、私の娘2人分」と言い放ち、ナミとノジコを実の家族として公言したのです。
見せしめとしてアーロンの凶弾に倒れたベルメール。その遺志と最期の言葉「生き抜きなさい」を胸に刻んだナミの前に、さらなる残酷な現実が突きつけられます。幼いナミが独学で描いていた卓越した海図作りの才能に目をつけたアーロンは、ナミを拉致し、自らの野望である「アーロン帝国」建設のための「測量士」として強制的に一味へ組み込みました。その際、ナミがアーロンに突きつけた唯一の抵抗が、「1億ベリーでココヤシ村を買い取る」という途方もない契約でした。
幼少期の8歳から16歳に至るまでの8年間、ナミは左肩にアーロン一味の刺青(タトゥー)を刻まれ、海賊専門の泥棒として命の危険に晒されながら金を奪い続けました。村人たちからは「裏切り者」「金に目がくらんでアーロンの手先になった」と誤解され、軽蔑の視線を向けられながらも、村を救うためだけに孤独な戦いを耐え忍んでいたのです。この「自己犠牲による過酷な二重生活」こそが、初期ワンピースにおける最も重厚な悲劇性の源泉泉となっていました。