結論から言えば、「ご覧いただきありがとうございます」という表現そのものは文法的に完全な正用であり、二重敬語などの誤用ではありません。文化庁が策定している『敬語の指針』に照らし合わせても、このフレーズは相手の動作を高める尊敬語「ご覧になる」の語幹に、恩恵を受ける謙譲語「いただく」を組み合わせた「敬語連結」に分類されます。二重敬語とは「ご覧になられる」「おっしゃられる」のように1つの言葉に同じ種類の敬語を重ねるミスを指すため、本表現はその定義に当てはまりません。
ではなぜ、「目上の人には失礼にあたる」という言説が広まっているのでしょうか。現場の日本語学者やマナー講師が指摘するのは、文法上の正しさではなく「いただく(=してもらう)」という受身・依頼のニュアンスが漂う点です。「見てくれたことに感謝する」という構造が、受け手によっては「相手に閲覧というアクションを強いたうえで恩着せがましく礼を言っている」と曲解される余地を残してしまいます。
特に伝統的な大企業や役員・VIP層を相手にする場合、「ご覧いただき」という響きがフランクすぎると感じる世代が一定数存在します。「正しい日本語=すべての相手に心地よい言葉」とは限りません。相手の立場や自社とのパワーバランスを考慮した、より一段高い敬意のバリエーションをストックしておくことがビジネスパーソンの防衛策となります。