ドラッグストアの棚を前に「とにかく効きそうな軟膏」を漠然と探すのは極めて危険です。床ずれ(褥瘡)に対する外用薬や被覆材の選択は、現在の皮膚病変がどの深さに達しているかで完全に分かれます。まずは床ずれ初期症状見分け方を正しく把握しなければなりません。
最も重要な判定基準が「指押しテスト(ガラス圧診法の代用)」です。骨が突出している部位の赤みを指の腹で3秒ほど軽く圧迫し、指を離した瞬間に赤みが白く抜ける場合は、血流が一時的に滞った「反応性充血」であり、まだ本格的な床ずれには至っていません。一方で、圧迫を解除しても赤みが消えず持続する状態は、すでに毛細血管が破綻し微小循環障害を起こしている「非蒼白性紅斑(ステージ1)」に該当します。
日本褥瘡学会の基準に準拠した床ずれステージ分類と治し方の基本原則は以下の通りです。
【ステージ1:皮膚の赤み(皮膚の連続性が保たれている段階)】
表皮は破れていません。この段階で求められるのは、排泄物や失禁の刺激から肌を隔絶する「撥水保護」と、寝返り時のシーツとの「摩擦・ズレ力の低減」です。角質層をふやけさせず、かつ滑りを良くする軟膏が最善の選択肢となります。
【ステージ2:浅い皮膚剥離・水ぶくれ(真皮浅層までの損傷)】
薄皮がむけたり、水疱が破れて赤く湿った面が露出した状態です。ここでは皮膚を乾燥させてはいけません。自己治癒能力を持つ体液(滲出液)を適度に保ち、傷口を密閉して痛みを緩和する「湿潤療法(モイストヒーリング)」へと処置方針を切り替える必要があります。
このように、「赤み」の段階では皮膚を守る油性保護膜が主役となり、「皮むけ」の段階では浸出液をコントロールする創傷被覆材が主役に躍り出ます。この前提を理解せずに軟膏を漫然と塗る行為こそが、初期病変を一気に深部潰瘍へと進行させてしまう最大の盲点なのです。