和食の伝統やインターネット上の伝聞において、寄生虫対策として信じられている幾つかの「裏技」には致命的な科学的誤りが含まれています。
「ワサビをたっぷり塗れば殺菌できる」「醤油や生姜に浸せば死ぬ」「酢締めにすればアニサキスはイチコロだ」といった俗説です。地方衛生研究所や水産試験場が行った耐久試験データによると、通常の調理濃度で作られた食酢やワサビ水、アルコール濃度の高い日本酒にアニサキスを浸漬しても、数時間から数日間ピンピンと生き残ることが実証されています。しめ鯖の酢漬け工程を経てもアニサキス食中毒が多発している事実が、これを雄弁に物語っています。
また、「よく噛んで食べれば虫体が噛みちぎられて無害化する」という説も過信は禁物です。アニサキスの表皮は非常に強靭なクチクラ層で覆われており、ゴムのように弾力性があります。さらに表面が粘液で滑りやすいため、臼歯ですり潰したつもりでも無傷のまま喉を通過してしまうケースが臨床現場で多数確認されています。人間の咀嚼力だけに依存した予防対策は、リスクマネジメントの観点から完全に破綻しています。