物理学の世界において、1/fゆらぎは「パワー(スペクトル密度)が周波数 f に反比例するゆらぎ」と定義される。数式で表すと無機質に思えるが、直感的に言えば「規則正しさと突発的な変化が絶妙に調和した、ちょうどいい不規則さ」を指す。
世の中に存在するリズムを分解すると、大きく3つに分類できる。1つ目は、時計の振り子や機械の動作音のように完全に等間隔な「周波数 f の0乗(ホワイトノイズに近い規則性)」。これは予測が立ちやすい反面、人間の脳に退屈や緊張、人工的な圧迫感を与える。2つ目は、サイコロを振り続けるような完全にランダムで予測不能な「周波数 f の2乗(ブラウンノイズ・茶色ノイズ)」。次が全く読めないため、脳は警戒を解くことができずストレスを感じる。
その完璧な中間に位置するのが、周波数 f の1乗に反比例する「1/fゆらぎ」だ。「次に何が起きるか大体予想できるが、ほんの少しだけ裏切られる」という絶妙なゆらぎこそが、人間の知覚に最大の快感をもたらす。東京工業大学名誉教授であり、日本における生体ゆらぎ研究のパイオニアである武者利光氏の諸論文によれば、この物理現象は単なる外の世界の法則にとどまらない。人間の心臓の拍動間隔(心拍変動:HRV)、脳波のアルファ波の周波数ゆらぎ、血流の周期に至るまで、生体リズムそのものが1/fゆらぎを描いている事実が突き止められている。
つまり、自然界の波の音や木漏れ日、小川のせせらぎに触れたとき、外部のリズムと体内の生体リズムが物理的に引き込み現象(バイオエントレインメント)を起こす。生体が「自分と同じ波長だ」と瞬時に認識し、交感神経の緊張が解かれ、副交感神経が急激に優位へ傾く。これが、言葉で説明できない安心感の正体だ。