精神分析の始祖ジグムント・フロイトは、人間が幼少期に抱く一次的自己愛から他者への愛情へと発達する過程に着目した。しかし、この発達が未消化のまま固定化された状態こそが、病理的自己愛の起源とされる。これに対し、自己心理学を打ち立てたハインツ・コフートは、親からの共感や適切な承認が得られなかったことで「共感的な自己対象」を内部に育てられなかったトラウマに原因を求めた。
現代の精神医学においては、アメリカ精神医学会が作成した『DSM-5』(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)によって明確な診断基準が設けられている。自己愛性パーソナリティ障害と診断される人物は、自分が特別であるという誇大性、際限のない成功や権力への没頭、過剰な賛美の要求、そして他者への共感の著しい欠如を特徴とする。これらは単なる性格の悪さではなく、脳内の認知パターンと深く結びついた精神医学的な課題なのだ。